世界の街角で
雲南省
少数民族を訪ねて
━白族(ぺーぞく)編━

文と絵:加藤暖子



 雲南省大理は、かの、大理石の産地である。省都の昆明(こんめい)より西へ約400km。「8時間で着くよ。」という中国人の言葉は、決して信じてはいけない。バスの故障を修理する時間、運ちゃんが気まぐれに寄り道する時間…計13時間強かかり、大理には朝8時ころ到着した。 大理はとても小さな街である。南北にのびるその街は、端から端まで歩いても一時間とかからない。街の西側はヒマラヤ山脈へ通じる山々、そして東側は、「●海(アルハイ)」という人の耳の形をした湖。ここから更に西へ150km進めば、そこはもう「ミャンマー」である。 大理には白族と呼ばれる少数民族がいる。現在、男性は顔立ちも服装も、他の漢民族と見分けがつかない。ところが、女性はとてもきれいな民族衣装を着ている人が多い。その衣装ときたらもう、ハデなことハデなこと。白地にピンクや金色の刺繍がしてあり、その布でつくった王冠のような大きな帽子もかぶっている。まるで、これから舞台にでも出るような格好で水くみに行ったり、買い物をしていたり…。 おばさん、おばあさん世代の女性はハデな刺繍はなし。白ではなく青や紺を基調とした落ち着いた、それでいて、とてもかわいらしい服装で歩いている。

 海を遊覧した時のこと。一人の白族おじさんと知り合った。見た目には漢民族となんら変わらない。ただし、中国語はあまり上手ではない。 海に浮かぶ小島でおじさんと、いろいろなことを話した。38歳建築家の彼は、幼いころとても貧しく、その日の飯さえままならない生活だったという。中国の改革開放のおかげで、生活は豊かになったそうだ。そんな話をしていた私たちの足元をふと見ると、何本かの注射器が落ちていた(使用済み)。「若者の間で「毒品」(覚醒剤・麻薬)は、はやってきてるよ。」と、おじさんはあっけらかんと話す。麻薬の一大産地、雲南省ではしかたのないことなのか。

 そんな彼の家に夕食に招待された。彼の家はとてつもなく大きかった。建築家ということで、白族伝統の造りのその家も、彼自身の作品であった。広い中庭で奥さん自慢の白族料理をいただいた。…と、これがとんでもない料理であった。まずは酒。大切な客にしか出したことのないというそれは、50度以上もある酒にパパイヤを10年間漬け込んだもの。甘いフルーティーな香りとは裏腹に、下戸の私にとってはきつい先制パンチであった。そして、次々にテーブルの上に肉や魚が並べられていく。なべかな、バーベキューかな、などと思いをめぐらせていると、「さ、遠慮しないで食べなさい。」という声。なんと、すべて生のままである。魚は例の 海でとれたもの。海といっても淡水の湖である。炎天下、おじさんが朝から、 海遊覧の間もずっと持ち歩いていたブタ肉も生のまんま。それらを奥さん特製のハーブ、唐辛子、さんしょうたっぷりのソースを付けていただく。このソースが、いろんな菌や寄生虫をやっつけてくれるに違いないのだが、その「麻辣(マーラー/舌がしびれる辛味)」は半端ではない。しかし、ごちそうになっているという立場上、おなかいっぱいいただいたのだった。ちなみに結果は私の腹の勝利であった。それどころか、勝利の翌日、今度はレストランでごちそうになる約束までしてしまった。 そして翌日、おじさんの友人である回族(イスラム系民族)の店でヒツジのなべを食べた。日本からの私を歓迎すべく、村の村長さん(漢民族)をはじめ、ベロベロに酔っ払ったチベット人まで、そうそうたるメンバーが集まってくれた。
  宴会の最後に、表から真っ白で大きなちょうちょうが一匹ヒラリヒラリと飛んできて、ちょうど私のおでこをかすめて、また表へと出ていった。私にとっては「うわっ、やめてくれ!」という感じだったのだが、これがなんと…白族にとってちょうちょうは幸運や、財をもたらす象徴らしく、おじさんいわく、「これからあなたは必ず富を得ることができる。」何を隠そう、彼自身その昔、大きなちょうちょうが頭の上をかすめてからというものどんどん金持ちになっていったのだそうだ。今のおじさんは、大理の人間なら知らない人はいないという、「超」がいくつ付いても足りないぐらいの大金持ちである。 海のほとりには、ちょうちょうを奉った「蝴蝶泉」という名の泉もあり、なんだかこの時ばかりは私も白族気分になり、喜んだ。 この後、みなでカラオケに行き、更には、デザートと称して雰囲気のいい「バー」のような所で、アイスクリームまでいただいた。 こんないわゆる「辺境」と呼んでもいいような大理で、こんなふうに遊ぶなんて、まったく予想だにしなかった。大理では、民族間の仲もよく、白族もみな友好的ないい人たちばかりだった。最後に、おじさんが私に言った。「今度来る時は、家族もみな連れて一か月ぐらい遊びにおいで。往復の飛行機代、滞在中のホテル代くらいは出せるから…。」 少数民族=質素、素朴というような、一般的な考えには、「例外」もありうるようだ。あなどれないものである。




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