よく私の作品展で「これは何画ですか?」と聞かれることがあります。表現方法としては「工筆画」なのですが、かといって中国の伝統的な工筆画ともだいぶ離れてしまっているように思います。 私としては「日本画」でも「工筆画」でも分野はこだわらないのですが、自分の表現したい「空気」を最大限出してくれるのが「工筆画」技法なのです。 私は花鳥画(主に植物)を描くことを得意としているのでよく植物園や公園へ行き写生します。 まず描く対象をしっかりと観察(スケッチ)します。 写真だけでは描くことができません。生物学的にもおしべの数や葉の枚数までメモしておきます。写実的に、緻密に描いていきますが写真のようにそっくりそのまま描くというのとも違います。 その後、うちで構図を考えていきます。「作品」として描かれていく過程では余分なものは消化していき、時間をかけて洗練された空間を創造していきます。「間」を作ることにこそ時間をかけて何度も描きなおします。キリリと張り詰めた空気感と柔らかな時間が流れているような感じが出せるのが理想です。 写生から構図、線描、着彩までの工程で手を抜いたところはすぐにわかってしまいます。途中失敗しても修正はできないので最初から描き直さなければいけません。ですからその緊張感の中から完成した作品は達成感もひとしおです。
工筆画とは
「写意画」は作者の「意」を表現する方法で、墨や顔彩を使い簡潔な線で濃淡や強弱をつけながら描く技法です。 「工筆画」は写意画より以前の唐・宋時期に発展しました。「密画」とも呼ばれ描く対象を緻密に表現します。 中国絵画や日本画などは輪郭線を用いて対象を描写します。西洋絵画と異なる点は、描く対象を「面」でとらえて立体的に光と影とで表現するのが西洋絵画の表現方法なのに対し、東洋絵画は「線」で形を描写し光源もひとつではなく散点透視法で描かれています。 サイジング(にじみ止め)された紙や絹に鉱石や植物からできた顔料と墨を使い、薄い色を幾重にも重ね塗りして描いていきます。 |
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酒井幸子さん |
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68年横浜生まれ。美術専門学校で中国水墨画を専攻し、卒業後同校勤務。のち中国師範大学に語学留学、北京中央美術学院で花鳥画を学ぶ。現在は作家活動に励み、個展・グループ展を開く傍ら、水墨画・工筆画の教室を催し指導する。 アサヒ飲料[中国緑茶 凛]パッケージデザイン(02年)や、永昌源[杏露酒]キャンペーンポスター(04年)に、酒井さんの花鳥画が採用された。 『豆彩』に、55号(06年2月)から「酒井幸子の世界―うつろいゆくもの」を連載中。『豆彩』55号の「中華街でニイハオ」(http://www.perinet.co.jp/tousai/0602/nihao.html)に、酒井幸子さんのインタビューを掲載しています。 |
工筆画でユリを描く |
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用 具 | ||
筆 | : | 面相筆(線描き用) 彩色筆(各色ごとに用意) |
紙 | : | サイジング(にじみ止め)されたもの (熟紙ともいう) 絵絹や板などにも描きます |
顔料 | : | 主に鉱石や植物からできたもの (チューブ入り中国画顔料など) |
墨 |
工 程 |
1写生 (1) |
スケッチをします。 花びらの枚数や葉脈の線の走り方などを記録しておきます。 |
2構図 |
描いたスケッチをそのまま用いることもありますが、スケッチしたものや写真などの資料をもとに構図を作成します。 |
3線描 (2) |
構図が完成したら作品を制作する本紙にシャープペン0.3ミリで複写します。 その後面相筆で墨の輪郭線を描きます。 |
4分染(ぶんせん) 下地塗り (3) (4) |
筆を2本用い、1本は淡彩色を含ませ、もう1本は水を含ませて着彩しては乾かないうちに水筆でぼかしていきます。そうすることで形の陰影と立体感を出していきます。乾かしては再び重ねてぼかしていく…という工程を7回ほど行います。花の部分も根気よく淡色を重ねていきます。 |
5平染(へいせん) 本塗り (5) |
そのものの色(葉なら草緑色)を重ねて塗ります(約3回)。 分染と合わせて、葉1枚につき約10回は塗ることになりますが、できるだけ薄塗りをして厚ぼったくならないようにします。 |
[酒井幸子 墨彩画教室]のご案内 |
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各教室で水墨画と工筆画の指導を行っております。出張指導や、英語による外国人のための水墨画教室も開催しております。 |
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[これから開催される教室] ■横浜美術館市民のアトリエワークショップ 2008年1月11日~3月14日の金曜日(全10回) 14:00~16:00 お申し込み先: 横浜美術館市民のアトリエ http://www.yaf.or.jp/yma/ [開催中の教室] ■横浜市大倉山記念館 墨彩画教室 第2・4木曜日 昼 13:00~16:00 夜 18:30~20:30 ■中山なごみ邸 楽し舎 第1・3木曜日 13:00~16:00 ■横浜市新田地区センター 日曜水墨画 第1・3日曜日 13:00~14:30 ■横浜市篠原地区センター 水曜水墨画 第1・3水曜日 12:30~14:30 |
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